五 戒
〈 私の五つの戒め 〉
五戒
楊 名時
昨日の努力があって今日がある。今日の努力があって明日がある。言葉で言えば誰もが解っていることかもしれません。
しかし、解っているだけでは駄目で、自分でそのように生きることが大切なのです。
私は、今日という日を最高に生きるために、五つの戒めを自分に課すことにしました。
一つ目は、「あせるな」と言うことです。
忙しい忙しいと自分を追い立てていると、自分が見えなくなります。そして、思わぬ失敗をします。
せっかくの山が宝がそこにあっても気がつきません。ゆとりのある心こそが、発見を与えてくれるのです。
二つ目は、「いばるな」という戒めです。
言うまでもなく、威張るということは、己を失った放漫な心の表れですから、心のおごりのないよう常に自戒したいものです。
三つ目の戒めは、「おこるな」と言うことです。
怒りは、どんな美しい顔も醜くします。心もくらせてしまいます。怒った顔の人、心に怒りを持った人の周りには、誰だって寄りつきません。何よりも怒りは、自分自身を見失わせてしまいます。
四つ目は、「おこたるな」と言うことです。
どんなに能力があっても怠けていては力を発揮することが出来ません。たゆまずに続けることの大切さを忘れたくないものです。
そして五つ目。「くさるな」、と言うことです。
失敗しても、挫折が訪れてもくさってはいけない、めげてはいけない。心をくさらせてしまったら、新しい知恵も考えも芽生えてはきません。
と、まあ、私流に覚えやすく五十音の順に五つの戒めを課しているのですが、ある人が、私のこのいつつの戒めの最初の音をとって「上だけ読むとアイオオクで『愛、多く』と言うことになりますね」とおっしゃいました。
この機知に富んだ発見に、私も、思わずつりこまれて笑ってしまいましたが、考えてみると、この戒めは、いずれも、それを支えるものは、人を愛し、自己を愛する心です。人生を愛する心です。
楊名時著:「太極拳のすすめ」より抜粋