
Acerca de
気功八段錦

イラスト:故・小関不二男師範
『八段錦』の名の由来
鶴は首が細長く、くちばしが長く、足が長く、白い羽に包まれていて、楚々として気品高く、ただそこに立っているだけでも絵になる、まことに姿のよい鳥です。ひと度、羽を広げて飛び立てば、それは演舞となり優雅で雄大です。
もともと八段錦・太極拳は、この鶴の動きに呼吸法を取り入れたものと言われ、型の考案も鶴と蛇の闘争から得たものとされています。また鶴は千年、カメは万年と言うように、鶴と亀は長寿のシンボルとなっています。
八段錦は 「 バドァンジン」 と読み、以前は 「抜断筋 (バドアジン)」と言っていました。
「抜」 は、全身の筋肉をいろんな方向や角度に伸ばしたり縮めたりして血液の循環をよくし、体を健康にしようとすることです。いわゆるからだの屈伸運動のことで、中国武術の導引術から派生したもの言われています。
「段」 は反物を数えるときの助数詞で、日本の匹に当たります。「断」 には決行するなどの意味がありますが、段と同じ発音なので「段」 の字をあて、それが反物を数えることから「錦」 をあてたのでしょう。そして運動が八種類あることから、抜を八に置き換え、「八段錦」 と表すようになったようです。八は末広がりと言って縁起の良い数字とされていましすし、
四方八方、江戸八百八町、八方美人というように広々とした意味の時に使われ、また、体全体を包括するといった意味もあります。
中国の織物の中でも、もっとも美しい「錦」 の字を当てて、八つの運動の名前にしたことは、その体の動きの優雅さが鶴の舞にも通じる事を物語っています。
楊名時著 「 太極拳の心」 25Pより抜粋

イラスト:故・小関不二男師範
八段錦:立禅
静かな動きの太極拳ですが、かなり高度の精神集中を必要としますので、太極拳を稽古する前には必ず立禅を行って心をととのえます。
禅は、人間本来の姿、自分自身の存在についての再発見、つまり悟りの境地に達するための修業の一つです。その代表的なものに、座禅、臥禅、立禅、行禅がありますが、太極拳では心の準備として立禅を取り入れています。
立禅の姿勢は、両足を肩幅と同じくらいに開き、かかとで爪先のバランスを取りながら体重を平均に両脚にかけます。膝をやや曲げて背骨をまっすぐにして立ち、顎を引いて頭はのびのびと天まで届く気持ちで立ちます。顎が上がると全体のバランスが崩れてしまうので注意します。
足の土踏まずの中央にある湧泉は「気」を通わせる大切なツボです。気とはたいないに流れる生命エネルギーとでも言うべきもので、健康に重要な関わりを持つものです。また湧泉は、腎臓疾患、精力減退、むくみ、動悸、生殖器の疾患などにつながるツボと言われています。立禅の精神安定は、ストレスが引き起こす胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、心臓病、ノイローゼ、不眠症を快方に向かわせる保健作用が多いのです。ほんの五、六分静かな安らぎを得ると、雑念は消え、心が安定してくることでしょう。太極拳は「立禅に始まり、立禅に終わる」とも言えます。

イラスト:故・小関不二男師範
八段錦:甩手
日本では見慣れない甩という文字はポイと投げるという意味で、手を大きく振る運動です。八段錦・太極拳を始める前の準備運動であり、太極拳を終えた後の整理運動です。全身に気血をめぐらせ、体全体をリラックスさせます。便秘、肩凝り、腰痛の予防や治療に効果があります。
足は肩幅くらいに開いて自然立ちになり、立禅の時と同じようにかかととをつま先をピッタリつけて立ち、湧泉( 土踏まずの中心にあるツボ)に余裕を持たせます。膝はやや曲げてゆったりとさせ、目は半眼にして呼吸を整えます。
腰を中心にして状態をまっすぐ伸ばして回転
させる甩手は、筋肉と同時に脊椎をも養う事になり、また、カルシウムの調整作用もあるので肩凝りや背中の筋肉痛ばかりではなく椎間板ヘルニア ( ぎっくり腰 ) などの予防も期待できます。甩手で脊椎に刺激を与えることは、内臓がマッサージされた状態となるので活発に働き始めます。そこで、体の自動調節が働き出し、交感神経が興奮すると副交感神経が沈静を与えあうことでちょうどよい状態になろうという働きが活発になります。
円を描くようにやわらく手を左右に振り状態を宙にしなわしていると、自然と一体となって大地のエネルギーを湧泉から取り入れる、そんな雄大な気持ちになれるのも、この技のよいところと思います。

イラスト:故・小関不二男師範
第一段錦:双手托天理三焦
「双手」は両手のことを言い、「托天」は手を上に伸ばして手の平を上向きにすること。中国医学では「三焦」の上焦は胃の上、中焦は胃、下焦は膀胱の辺りの三つを指すので、胃や腸をととのえて丈夫にするということ。腹部の贅肉もとり、肩凝りにも効く。
※ 稽古時の心得:
手を挙げるときに域を吸い、下ろす時に息を吐く。二度手を挙げて元の姿勢に戻るまで1分位かける事が出来れば十分。
はじめは呼吸と動きが合わなくてもかまわず、出来るだけ長く深い呼吸を心がけていれば、いずれ呼吸と動きは一致していく。
息を吸うときは下腹部を縮め、吐くときには下腹部を張る呼吸を意識するようにする。
両手を上に挙げる時はゆったりとした動きの中で力がみなぎっていくような、頭上から指を解いて下ろして行く時は、みなぎった力を外へ発散させるようなイメージを持つと、気の流れがよくなる。
ゆったりとした手の動きと呼吸により、体中に酸素が行き渡り、疲れが取れ、肌がいきいきしてくる。
椅子に座っても出来るので手軽に行える。

イラスト:故・小関不二男師範
第二段錦:左右開弓似射雕
雕はタカの一種で、そのタカを射る動作に似ていると言うこと。
弓を射る姿勢は胸の筋肉を柔らかくし、肺や心臓の強化に役立つ。特に心臓病の予防と治療に効果があり、女性のバストを豊かにする。又、騎馬立ちによるももの筋肉への刺激は、足腰の鍛錬に役立つと同時に血液循環を良くし、代謝を活発にするので、足のぜい肉を落とす効果も期待できる。
※稽古時の心得:
第二段錦の騎馬立ちは、足を広めに開いて膝を曲げ、腰を落として立つ姿勢。手は力を抜いて前に下げる。騎馬立ちはきつい姿勢なので、初心者やひざの悪い人は無理をしないこと。足腰の弱い人は急がず時間をかけて慣れていくようにする。また、もっと運動量が欲しい人は、腰を低くして行うと良い。
Vサイン(剣訣)は剣の形を取って邪を切るとい意味
で、弓を引いて戻すまでVサインの間から遠くを見続ける。丹田からVサインにした指先に気を流していく意識を持つことも大切なポイント。
気を指先に流すことによって、体に気がみなぎり、精神を安定させる事ができる。はじめのうちは、つい動作が速くなりがちなので、ゆっくりとした動作と長い呼吸を意識して行うのがよい。

イラスト:故・小関不二男師範
第三段錦:調理碑胃須単挙
「調理」はととのえて丈夫にするという事で「 須
単挙」は片方の手を挙げるということ。片方ずつ手を挙げることで脇腹の筋肉を強く刺激し、脾臓と胃を丈夫にする効果がある。脾臓はリンパ系の器官で体内の循環血液量を調整し、人間の体を細菌から守る。体調不良やストレスの影響が最初にでるのが胃と言われており、胃炎や十二指腸潰瘍の予防、治療に効果がある。また、精神的なイライラや不安から解放され、心身のバランスをよくする。
※稽古時の心得:
三段錦は左右の手の動きが逆になる。動きと呼吸一致を意識しながら、上の手は手の平で天を押し上げるように、下の手は大地を押し下げるように、左右上下のバランスを保つことを意識する。かける時間は2分くらいが適当。
また、手の動きは龍をイメージしている。龍の勇壮でしなやかな姿を思い描きながら動くこと。
第三段錦は中国における重要な思想である「陰陽」を基にした動きでもある。上に押す手は陽、下に押す手は陰、この陰陽のバランスが取れて宇宙と一体になり、心と体に調和が生まれる、という考えが背景にある。上下左右のバランスに気を付けてのびのび行うと気持ちのバランスも取れ、動きも心もまろやかになる。

イラスト:故・小関不二男師範
第四段錦:五労七傷往后膲
「五労七傷」の五労は心労、肝労、肺労、脾労、腎労の五臓のいを言います。いわゆる内臓の慢性病をさしていますが次のような内容も含んでいます。「目を使いすぎると血に良くない・長く寝過ぎると気に良くない・長く座りすぎると肉に良くない・長く立ちすぎると骨に良くない・長く歩きすぎると筋に良くない」、何事も過ぎたるは及ばざるが如しという戒めです。七傷は陰塞(通じが良くない)、陰痿(精力減退)、裏急(排便がほとんどない)、精漏(精気が漏れる)、精少(精液の量が少ない)、精清(精液の濃度が薄い)、小便数(小便がよく出ない)など、腎、生殖機能の衰えの事を言います。また往后膲は後ろを見るという意味ですが、実際は首を回して左右に向ける運動です。
※ 稽古時の心得:
まず自然立ちをして気持ちを落ちつかせ息を吸いながら両手を持ち上げ、気を丹田に集めます。首を左に回して右の足心に気を通すとき、まず丹田に集めた気を胃、胸を通し、経路にそって脳に導き、首、背中を通して腰に導き、太ももを通って足心(土踏まず)に誘うというように、後ろを見るという言葉には、気を後ろを通して全身に巡らすという意味が含まれています。首を左に向ける時は「心の目」で右の足心を見つめます。足心が床にペタリとついていては効果はありません。必ず爪先に力を入れて立ち、かかととの間、つまり足心にゆとりがあるように立ちます。右向きの時もこれと同様にします。

イラスト:故・小関不二男師範
第五段錦:揺頭擺尾去心火
揺頭擺尾は腰を軸のようにして頭を揺り動かすという意味です。つまり上半身を右に左に頭と共に動かしてバランスを取る運動です。尾去心火は心の火を去るということで、心の中にたまって不安、不満、厭なことを取り去ること、ストレス解消の意味です。
心臓の強化、足腰を強くする、下半身を美しくするなどの効果もあります。第五段錦は珍しい運動で、騎馬立ちで始まり騎馬立ちで終わるので、初心者にはきついかもしれませんが、足腰の衰えを防ぐのに最も効果的な運動です。グッと腰を下ろせば下ろすほど緊張筋が脳に刺激を送り、刺激を繰り返すので老化防止にもなり、頭のボケを防ぎます。
※ 稽古時の心得:
騎馬立ちになり、両手を太ももに直角につけて腕を自然に張らせ、目は正面をみます。息を吸って、頭と背骨を一本の棒のようにして腰を軸に頭と上半身を一緒に右から左へ息を吐きながらに円を描くように回します。背中が丸くならないように注意します。頭が左膝の上にきたら息を吸いながら首だけゆっくり右へ回し右足の土踏まず(足芯)を見ます。一〜二秒休んで息を吐きながら首をゆっくり左膝へ戻します。真っ直ぐ伸ばした背中の筋肉、首の筋肉がよくマッサージされているのが感じられるでしょう。息を吸いながら上半身を正面に戻していきます。ゆっくりと頭をあげて、静かに元の姿勢に戻します。五段錦の呼吸は左右で二息づつ、始まりと終わりの正面での一息を合わせ、五息で行うのが原則です。

イラスト:故・小関不二男師範
第六段錦:両手攀足固腎腰
攀足は、足をつかむことですから両手で足をつかみ、腎臓と腰を丈夫にするということです。
体を大きく屈伸させる運動と回転させる運動をするので、日頃動かす機会のない腎臓を柔らかくマッサージし、内蔵全体に刺激を与えて働きがよくなるので、循環を良くすると同時に消化吸収を助け便秘を改善します。また深長呼吸という呼吸法が加わっているので、体の中に新鮮な空気がたくさん入り、丹田に集めた気が経路に乗って酸素を体中にめぐらすので、気血の流れはもちろん、体中の新陳代謝がよくなり、肩や首のコリがほぐれてきます。腰を回す運動は毎日の生活の中ではしないことなので、手足の先が暖かくなる六段錦は、寒い季節の時など冷え対策に活用したい運動です。
※ 稽古時の心得:
左足を肩幅より半歩広く開き、自然立ちになり、呼吸を整え、手の平を下に向け、やや後ろに引いて気を丹田に導きます。体を後ろにそらして回し、前に折り曲げる動作は、後ろの運動と腹筋運動です。また、上体を反らしたときに息を吸い前で吐くという深長呼吸法は、やりにくければ前で吸って後ろで吐いても良い。腹式呼吸をしながら腰を深く屈伸させるので腹筋の運動にもなります。足腰の鍛錬と大臀筋、腸𦙾靱帯、大腿二頭筋の三本の筋肉を主に使うのでヒップの贅肉を取ることができます。

イラスト:故・小関不二男師範
第七段錦:攢拳怒目増気力
攢拳はコブシを握ること、怒目は目を怒らせること。これによって気力を増すことができる。コブシで突きのような動きをするので血圧を上げそうだが、雑念を払い精神統一をはかることで、逆に血圧を下げる働きをします。六段錦までは心を静める働きでしたが、七段錦は「剛柔相済」で心が沸き立つような
動作を配して、内からの気力を引き出します。武術の名残があり、ボディビル的な要素が強い運動で、筋肉を引き締め、逞しい骨格を作り、気力を増進させます。腹筋や大臀筋などの大きな筋肉を動かし、血流を増進し、しなやかな血管を作ることから、血圧を整える効果が期待できます。
※ 稽古時の心得:
七段錦のポイントは、目を見開いて力強く拳を握り、下腹部にグッと力を入れて動くこと。「上虚下実」と言って下半身を充実、安定させること。騎馬立ちになって、動作と呼吸は出来るだけゆっくり、充実感を感じながら行います。目は突き出していく拳をしっかり見つめ、気を丹田に導きます。息をはきながら拳をだし、充分に伸びきったら片方の拳を引きます。充分に引ききったら吐く息をかえます。一息に約二分間くらいかけながら行います。騎馬立ちになって拳を突き出していく動きはなかなか勇壮な形なので、つい力を一杯入れがちになるが、あくまで気功の運動なので力は抜いて、ゆっくりと深長呼吸を行いながら気力を充実させていきます。。

イラスト:故・小関不二男師範
第八段錦:背后七顚百病消
「背后」は背中のことで、脊柱脊髄を指します。「七
顚」は七回振動させることです。「百病消」は百の病を治すとう意味で、日本でいう風邪は万病のもとの「万
病」に当たるのが「百病」という訳です。深く長いゆったりした息を吸いながらかかとをあげ、ストンと落とすだけのこの単純な運動は、体中にほどよい振動を与えて全身の骨の関節、内臓、背骨を刺激し、血の巡りをよくします。日頃こりかたまっている背骨をやわらくして、私達にとって大切な脊髄の機能を滑らかにするので、ギックリ腰を予防し、造血作用をさかんにします。また、大脳を刺激し情緒を安定させる働きと、肛門の括約筋を締めることで便秘と痔の予防にも効果があります。
※ 稽古時の心得:
大切なポイントは、かかとを上げたら五〜六秒間息を止めてそのままの姿勢を保ちます。つま先立ちになった時に気を丹田に集めながら下腹へこまし、肛門の括約筋を締めるようにします。また、つま先立ちになった時に身体がふらつかないように、両手でバランスを取って姿勢をキープします。次に、息を吐きながら膝を曲げかかとから軽くストンと下ろします。強く落とさないことです
。此の時の振動が七顚にあたるもので、八段錦の大きな特徴になっています。膝や腰の調子の悪い人は、立ったままの姿勢で終わります。床が固いときは膝で調整します。
スァン ショゥ トゥオ ティエン リ サン ジァオ
ヅゥオ ヨウ カイ ゴン シ シォ ディアオ
ティアオ リ ピ ウェイ シュ ダン ジュイ
ウ ラオ チ シァン ワン ホウ チャオ
ヤオ トウ バイ ウェイ チュイ シン フォ
リァン シォウ パン ズ グ シェン ヤオ
ザン チュァン ヌ ム ゼン チ リ
ベイ ホウ チ ディエン バイ ビン シァオ